グアテマラといえば、コーヒーやマヤ文明の遺跡が有名だが、この国には第２の国歌と呼ばれるロックの歌がある。
グアテマラのロックバンド、Bohemia Suburbanaが1993年に発表した「Peces E Iguanas」（魚とイグアナ）という曲だ。

この歌が発表された時代背景

1993年は、1960年から1996年まで続いたグアテマラ内戦の終り頃にあたる。
この内戦では、親米派と反米派や左派勢力などの間で武力闘争が起き、多くの市民が虐殺・拷問されたり失踪した。犠牲者は20万人、その8割ほどはマヤ系などの先住民と言われている。

さて、1990年代といえばアメリカ、シアトル初の「グランジ」と呼ばれるロックが流行。資本主義の行き過ぎた煌びやかさに象徴される薄っぺらい社会に対して、日常の等身大の自分に焦点が当てられる。否応なしに巻き込まれていくこの「腐った」社会の中で、無力だと自覚しつつも叫び声を上げる「個」人、グランジにはそういう匂いがある（と自分は思う）。

そんなグランジなどの影響を受けたBohemia Suburbanaが結成されたのは1992年。同年には隣国エルサルバドルの内戦が終結。内戦にはもううんざり、という時代の空気の中、翌1993年には、この「Peces E Iguanas 」を含む「Sombras en el Jardín」(庭の影)のカセットテープを、バンドメンバー自らが大学やクラブなどで直売りしていたらしい。

魚とイグアナ

最初はこっそりと売られていたが、次第に人気が出て、この曲は当時ラジオで毎日のように流され、皆が口ずさむようになったそうだ。

歌詞は以下。

En situaciones como ésta
De nada sirve una promesa
Ni el mucho pensar antes de actuar
Un día un loco miró por la ventana
Vió como la lluvia caía de liviana
Tan liviana que pensó que mañana le iría mejor
Y así esperó de nuevo el sol

Como saber si eres pez o iguana
Si no pruebas ni tierra ni agua
Ni peces ni iguanas
Ni tierra ni agua

La cama revuelta estaba
Despues de una hora de accion
Y luego en la sala el televisor que no cuenta
Historias de amor

Bohemia Suburbana　”Peces E Iguanas”　

このような状況では
約束は役に立たない
行動する前に熟考することも役に立たない
ある日、ひとりの狂人が窓の外を見た
小雨の様子を見て
大して降ってないから、明日は天気になると思った
だからもう一度晴れを期待した

君が魚かイグアナかどうすれば分かるのか
土も水も試してみないのなら
魚でもイグアナでもない
土でも水でもない

散らかったベッドは
１時間の行動の後の結果だ
そして居間にあるテレビは語らない
愛の話を

（TirimenJ5 拙訳）

一見、恋愛をテーマにした歌のようにもとれる歌詞である。が、内戦状態に麻痺している人々に、自分で考えて変化を起こすことを促す、という効果があったようだ。

魚かイグアナか。グアテマラ内戦時代は、敵か味方か分からない市民は無差別に殺されていた。また拷問や性暴力は日常茶飯事だったということを、ふと連想してしまう。

ボーカルのGiovanni Pinzón（ジョバンニ・ピンソン）は父親が軍人、本人も軍人養成学校の学生だったようだ。軍関係者の中から、武器を捨てて音楽でもって表現の自由を先取りした動きが出てきたのは興味深い。

最後に

とはいえ、Bohemia Suburbanaはクリオーリョ(要するにこの国では上層階級に属する)のバンドであり、全国民がこの歌に素直に共感しているわけではないようである。
内戦で一番被害を受けたのは先住民であり、国の中の分断はそう簡単にはなくならないだろう。現にグアテマラの貧富の格差はラテンアメリカの中でも特に激しい。

ただ、この曲とこのバンドがのちに続くグアテマラロックの口火をきり、ロック・マヤなどのグループも出てくるきっかけになったことは確かなようだ。

■YouTube
https://youtu.be/XOvl2OzVMS8

■参考
http://lalombrizdejupiter.blogspot.com/2008/09/peces-e-iguanas-el-segundo-himno-de.html?m=1

http://pacaya.blogspot.com/2011/11/peces-iguanas-centavos-y-balas-los.html?m=1