「庭の影」に見る1990年代グアテマラロック


 前回に引き続き、グアテマラのロックバンドBohemia Suburbanaのアルバム「Sombras en el Jardín」が面白かったのでもう少し書き足す。

アルバム「Sombras en el Jardín」(庭の影)は1993年に発表された彼らの1stアルバム。1時間足らずのアルバムだが、出だしから銃撃音やラジオ放送の声なんかが聞こえてくる。

1曲目の「Falacias Suburbanas」(郊外の偽り)はこんな感じ。

Help heal his honour
El pelotón antimotines arrojó bombas lacrimógenas
Son las 10 de la noches
Guatemala tuvo preparado, durante meses un plan para lanzar paracaidistas sobre el aeropuerto de Belize

(Apple Musicに出てる歌詞を抜粋)

4行目はベリーズ問題(イギリス、ベリーズvsグアテマラの領土問題)に関連して、1975年
のグアテマラによるベリーズへの武力進攻計画のことを指していると思われる。
なんか政治的な感じやな、と思いきや、2曲目「Yo Te Ví」(君を見た)の曲の出だしでいきなり

”el sexo es fantástico”(セックスは素晴らしい)

というささやき声が入る…
政治的なことは関係ないぞーっ、ていう雰囲気やんか。

勇気が必要だ

 一見、大した主張がなさそうにカモフラージュされているけど実は現状批判が込められているのがこのアルバム。アルバム最後の曲「Solo Hace Falta Valor」(勇気が必要だ)は本音が分かりやすい。

 約10分の収録時間のうち、曲は4分半ほど。残りの5分くらいは無音で、最後の約1分でエコーをかけた独白が入って終る、いわゆる「隠しトラック」みたいな細工が入っている。(隠しトラックで同時代で思い出すアルバムはやっぱりニルヴァーナの「Nevermind」(1991年発表)かな。隠されているのは独白でなくて曲だけど。)

 で、曲の頭に戻るが、聞こえてくるラジオ放送は1981年の「焦土作戦」の犠牲者数の発表のようだ。「焦土作戦」とは、グアテマラ政府による、ゲリラに関係している疑いのあるマヤ民族の村への国家的無差別虐殺プロジェクトである。36年におよぶグアテマラ内戦の犠牲者20万人超の大多数が、1981年〜1983年の焦土作戦によるものだと言われている。

 肝心の隠しトラックの独白部分(最後の55秒)はなかなか聞き取りにくいが、
「昨日君が緑色の服を着て泣いていたのを見た」
「今日は青色に塗った君を見たが、はっきりとは見えない」
「他の頭のおかしい奴らは赤色に塗りたがっている」
「いろんな色や紙片を塗られるのは好きじゃない」
...というようなことを言っているように聞こえる。

よく分からないけれど、赤、といえば共産主義の象徴なので、緑や青もなんらかのイデオロギーを象徴しているような気がする。最終的には、何らかの色(主義)を塗られるのは嫌だということだろう。

アルバムジャケットも改めてよく見ると、先住民系とおぼしき男女の写真が使われている。
どっちにしろグアテマラの当時の現状に対して肯定的ではないのは分かる。

■YouTube(Bohemia Suburbana:1993年「Solo Hace Falta Valor」)

1993年前後の状況

 アルバムリリースの前年、1992年はグアテマラの先住民の貧困や軍による人権無視を訴えたマヤ系先住民のリゴベルタ・メンチュウがノーベル平和賞を受賞。

 1994年は国連が和平交渉の仲介活動に入り、国連グアテマラ監視団が創設されている。こういった国外の力が直接影響したかどうかは分からないが、 同年1994年12月、グアテマラのロックバンドばかりが集まったロックフェス、グアテマラ版「ウッドストック」があった。その名も「Libertad de Expresión Ya」(表現の自由コンサート)。
明らかに時代の変化が表れた一つの証として、このロックフェスは記憶されている。

■YouTube(Viernes Verde:1994年「Libertad de Expresión Ya」コンサート)

日本ではあまり聴く機会のないグアテマラロック、歴史はまだそんなに長くはないが、その背景を調べると重い。

(参考)
https://www.taringa.net/+videos/guatemala-concierto-de-libertad-de-expresion-1994_136izb