「アルゴリズム」と自由意志:ホルヘ・ドレクスレル


今更ながら、ツボをついたSpotifyのレコメンドに驚愕しつづけているtirimenJ5です。(それまではAppleMusic使い)

おそらくSpotifyでなかったら、こんな外国のインディーバンドを知ることはなかっただろうと思いながら、一体どんな仕組みで私の好みを分析してレコメンドしてくるのか、非常に気になるところ。

さて、こういったレコメンドの仕組み、いわゆる「アルゴリズム」をタイトルに冠した、ホルヘ・ドレクスレルの「¡Oh, Algoritmo!」。今日はこれを「レコメンド」しようと思う。(ちなみにこの曲はSpotify経由で知ったのではない)

Dime qué debo cantar
¿Quién quiere que yo quiera lo que creo que quiero?
Oh, algoritmo
¿Quién quiere que yo quiera lo que creo que quiero?
Sé que lo sabes mejor
¿Quién quiere que yo quiera lo que creo que quiero?
Incluso que yo mismo
¿Quién quiere que yo quiera lo que creo que quiero?

(Jorge Drexler: ¡Oh, Algoritmo! )

何を歌えばいいか教えて
自分が欲しいと思うものを私が望むことを誰が望むのか?
ああ、アルゴリズム
自分が欲しいと思うものを私が望むことを誰が望むのか?
私自身のことでさえ
自分が欲しいと思うものを私が望むことを誰が望むのか?
君の方がよく知っている
自分が欲しいと思うものを私が望むことを誰が望むのか?

(tirimenJ5拙訳)

ホルヘ・ドレクスレル自身は、「アルゴリズム」そのものを批判しているわけではないとのこと。数年前に話題になった、ユヴァル・ノア・ハラリ著の「ホモ・デウス」からインスピレーションを得て、「自由意思(el libre albedrío)」をテーマにこの曲を作ったらしい。

「ホモ・デウス」では、生物はアルゴリズムであり自由意思は存在しないという主張が展開されている。自分自身よりも自分のことをよく理解しているアルゴリズムが結婚相手から何から何まで最適解を提示してくれるので、人間は自分で考えて選ぶ必要がなくなる・・・そもそも生物の思考なんてものは、脳内物質の生化学的アルゴリズムによってアウトプットされるのだから、自由意思なんか最初から存在しない、みたいな話があった記憶がある。

逆に、どうやってもよいという自由の中にいると、逆にアルゴリズムによる「ご宣託」があるほうが気が楽になるという、一種の「誘惑」がある、とホルヘ自身は語っている。

まぁ実際、いろいろ選択肢があってもどれがいいのか吟味していく時間も体力もなかったら、いい感じのものを上手い具合にチョイスしてくれるのは助かりますからね。
選んだこと自体に対する「責任」も自分が背負わなくてもいいですから。これが突き進んでだんだん自分に主体性がなくなってくるんじゃないかという不安はある。

けれども逆の考え方をすれば、自分の「好み」というデータをアルゴリズムに与えて、アルゴリズムの発展に寄与している。ゆえに自分はアルゴリズムと同一という考え方もあり得るわけですね。その場合、自分自身は主体性がないわけではなく、人類の叡智が結集されたもっと巨大なアルゴリズムというものを日々進化させている一部と捉えられなくもない。

どっちにしろ、人類の進化において今の時代が転換点になっているのは間違いないわけで。

最先端の話題がテーマのこの曲でフィーチャリングされているのは、これまた最先端のアーティスト、イスラエルのノガ・エレズ(Noga Erez)。
この歌のキー(鍵)であるコーラスと、スペイン語と英語で対になった部分はノガ・エレズの貢献が大きいようだ。
以前から彼女の作品が気に入っていたホルヘ・ドレクスレルが、ノガ・エレスにインスタのダイレクトメッセージで打診。一度も直接会うことなくパンデミックの中、Zoomでセッションを行って創られた模様。これまた今らしい。

映画「モーターサイクル・ダイアリーズ」の主題歌が初のスペイン語楽曲としてアカデミー歌曲賞を受賞して18年。アルゴリズムと自由意思についてホルヘ・ドレクスレル独唱。

(参考)
https://podcasts.apple.com/jp/podcast/the-latin-alternative/id354084083?i=1000569136542