私の好きなカバー曲について、第3回目。今回はサンタナの代表曲のひとつ「Black magic woman/Gypsy Queen」について。
オリジナルについて
Black Magic Woman (Fleetwood Mac) 1968年
Fleetwood Macの初期(ブルース期)の作品で、作曲はピーター・グリーン。ピーター・グリーンはこの後、精神的問題(幻覚、ドラッグ影響、シュタイナー思想など)でバンドを脱退する。
テーマは、自身の内面的な葛藤や人間関係の中で感じた“魅惑的だが危険な女性像”。楽曲は、エリック・クラプトンやB.B.キングといったアーティストに影響を受けたブルース的構成でありつつも、どこか呪術的でスピリチュアルな雰囲気を持っている点が特徴(約3分10秒)
イギリスではヒットしたが、チャートとしては全英37位止まりだった。。。
Gypsy Queen (Gábor Szabó) 1966年 アルバム『Spellbinder』
Gábor Szabó(ガボール・ザボ)は1936年ハンガリー生まれ(1956年のハンガリー動乱後にアメリカへ亡命)のジャズギタリスト。東欧民謡(ハンガリーのジプシー音楽(ロマの旋律)など)、サイケロック、ヒッピーカルチャー、ボサノヴァとモーダル・ジャズを融合した音楽で知られる。
楽曲は インストゥルメンタル。ジャズ、ラテン、東欧のジプシー音楽が融合している。急速なスパニッシュ風のスケール進行(ハーモニック・マイナーやジプシー・スケールに類似)にリズムは6/8拍子風のラテン・フィール(ペルー・アフロキューバンの影響)。
ザボの音楽にはもともとハンガリーのジプシー音楽的旋律(短調・異国的スケール)が含まれており、ラテン音楽の哀愁や多弁性と親和性が高い。
Black Magic Woman / Gypsy Queen (Santana) 1970年 アルバム『Abraxas』
上記2曲をメドレーにしてカバーしたのが、サンタナの「Black magic woman/Gypsy Queen」。
サンタナは1947年、メキシコ・ハリスコ州生まれ。若くしてバイオリンとギターに親しむ。(父親はマリアッチのヴァイオリニスト)
1960年代にアメリカに移住し、サンフランシスコで音楽活動を開始し、1969年のウッドストックでブレイクする。1970年代以降、東洋思想(特にインド哲学)や精神修行(瞑想)に傾倒。音楽を「祈りの手段」「魂の治癒」ととらえ、多くの楽曲に宗教的・霊的モチーフがある。
このカバー楽曲は、オリジナルの歌詞を踏襲しながらも短く、インストゥルメンタルがメインのラテンロック+ジャズ+サイケ(約7分)。
「Black Magic Woman」は、ブルースに傾倒していたサンタナがもともと敬愛していたピーター・グリーンの曲で、その“霊的で哀しげなブルース”の要素と、「Gypsy Queen」のエキゾチックで霊的な雰囲気が『Black Magic Woman』の延長にぴったりだということで、「Black Magic Woman」に「Gypsy Queen」をつなげてメドレーとして演奏されている。
異なるジャンルの異なる2人の曲をメドレーにする例はあまりないのでは?
という疑問がある。ありそうでなさそうな発想なので。そこで思ったのは・・・ラテン音楽の伝統的発想。ある意味、「Gypsy Queen」の部分は、ラテン音楽(サルサ)のモントゥーノのセクションにあたるともいえるかも。
モントゥーノは楽曲の中の1つのセクションで、ポップスでいう「サビ」にあたる。サルサではコール&レスポンス(掛け合い)が入って、一番踊りが一番盛り上がるところ。
そう考えると、モントゥーノの前は「テーマ」なので「Black Magic Woman」部分はテーマになる。
2つの異なる楽曲をくっつけるのは、凄い音楽的インスピレーションだと思うと同時に、ラテンミュージシャンの出自ならではの発想なのかもしれないと思う。
サンタナにとって「Black Magic Woman」は、単なる恋愛の歌ではなく、“内なる闇と光の戦い”を描いた曲。音を通じて魂を解放するような感覚になり、人の心の深いところへ働きかける“祈り”でもある。
ピーター・グリーンはサンタナのカバーに好意的だった。原曲とは全く異なるラテン・スピリチュアル・ロックへのアプローチを、「自分では決してできなかったスタイル」として認めていた模様。またこの楽曲は米Billboardチャート4位になった。