Halkalı Şeker ( My Favorite Cover4)

私の好きなカバー曲特集4回目、今日はトルコの「Halkalı Şeker」という曲を取り上げます。

「Halkalı Şeker」という曲はトルコの民謡で、誰でも知っているポピュラーな曲らしいですが、今日はこの民謡を現代風にアレンジした2曲を紹介します。

Halkalı Şekerという民謡について

「Halkalı Şeker」はトルコ語で、直訳すると「輪っか状の砂糖菓子」や「リングキャンディ」という意味。紅白のストライプの長い金太郎あめみたいなのが輪っかになっているもので、トルコの子ども向けのお菓子として有名で、素朴で懐かしいイメージがあるものらしい。

この曲は伝統的なトルコ民謡で、アナトリア地方(中部〜東部トルコ)の民謡として伝承されてきており、具体的な作詞・作曲者は不明です。子どもたちの遊び歌・わらべうたに近く、テーマは明るい恋愛で、地域によって歌詞のバリエーションがあるようです。

Kubat(クバト)バージョン

Halkalı Şeker  1999年 アルバム『Bir Ayrılık Bir Yoksulluk Bir Ölüm』(別れ 貧困 死)収録

Kubatは「Halkalı Şeker」を現代アレンジでもっとも広く認知させた一人(最初に現代アレンジした人物というわけではない)。

Kubat、本名はRamazan Kubat(ラマザン・クバト)1974年、ベルギー・アントワープ生まれのトルコ系ミュージシャン。1964年にベルギーとトルコが労働協定(労働者受け入れ協定)を締結しているので、移民2世と思われる。

 音楽スタイルは、トルコ民謡(Türkü)と現代音楽を融合させたスタイル。特にアレヴィー派の伝統音楽や中東のリズムを取り入れながら、エレキギターやシンセサイザーなど現代的なアレンジも行うことで、伝統とモダンの橋渡しをするアーティストと評価されている。また民謡の「オザン(吟遊詩人)」文化を継ぐ存在として、詩的で哲学的な歌詞も多く、国内外に熱心なファンがいる。

2015年公開の、日本とトルコの友好125周年を記念して作られた映画「海難1890」のテーマソングを歌っている。(1890年に起きたエルトゥールル号遭難事件と、イラン・イラク戦争(1980年開戦、1988年停戦)における日本とトルコの友好を描いた映画。義理人情に厚い両国民の絆を再確認?)

トルコ民謡の要素

① “Uzun Hava”(ウズン・ハヴァ)的要素

直訳すると「長い空気(長い息)」という意味。拍に縛られない自由な節回しで、感情を込めて歌うトルコ民謡の技法。Kubatの一部のフレーズに、この自由さや語りのような節回しが見られる。

② “Bozlak”(ボズラク)スタイル

中央アナトリア地方の遊牧民・村人たちの民謡スタイル。激しくこぶしを効かせる、叫ぶような発声 が特徴。前のめりなタイミングや、メロディの中で突くようなアクセントは、この影響を受けている。

打楽器「kaşık(カシュク)」

ミュージックビデオの冒頭に登場する男性が手にしているのは、トルコの伝統的な打楽器「kaşık(カシュク)」。「kaşık」は、トルコ語で「スプーン」を意味する。これらは通常、背中合わせに組み合わせた2本のスプーンを手に持ち、リズミカルに打ち鳴らして使用する。この楽器は、特に中央アナトリア地方(例:コンヤ、エスキシェヒル、アンタルヤ)の民俗舞踊「Kaşık Oyunu(スプーンダンス)」で広く用いられている。

Altın Gün(アルティン・ギュン)バージョン

Halkalı Şeker  2018年 アルバム『On』(トルコ語で「10」の意味)収録

Altın Gün(トルコ語で「黄金の日(Golden Day)」)は2016年、オランダ・アムステルダムで結成されたオランダ人とトルコ人混成のサイケデリック・ロックバンド。

バンド結成のいきさつ

バンドの創設者Jasper Verhulst(ヤスパー・フェルフルスト)は、オランダのサイケデリック・ポップアーティストJacco Gardner(ヤッコ・ガードナー)のバンドでベーシストを務めていた。

2016年頃、Jacco Gardnerのツアーで訪れたトルコのイスタンブールでアナトリアン・ロックや70年代トルコ・フォークのレコード、とくにSelda Bağcan(セルダ・バージャン)やErkin Koray(エルキン・コライ)、Barış Manço(バルシュ・マンチョ)などの音楽に衝撃を受け、「これは現代的に再解釈できる!」と感じ、西洋のロックとトルコの旋律を融合させ、アナトリアン・ロックを現代に蘇らせることにした。

VerhulstはFacebookなどにトルコ系ミュージシャン募集の広告を出し、Erdinç Ecevit Yıldız(エルディンチ・エジェヴィト・ユルドゥズ:ボーカル、サズ、キーボード)とMerve Daşdemir(メルヴェ・ダシュデミル:ボーカル、キーボード)の2人が加わりバンド結成となった。Merveは2024年に脱退。

セカンドアルバム「Gece」(夜:2019年)は第62回グラミー賞「最優秀ワールド・ミュージック・アルバム」にノミネートされている。

楽曲について

トルコ民謡の特徴としては、微分音(通常の半音の間にある音。平均律では出せない)や9/8拍子がある。

サズなどの民族楽器以外で微分音を出すには、シンセサイザーなら微分音を含むマカーム・スケールを直接設定できるものを利用したり、アナログシンセではピッチベンドホイールやモジュレーションで滑らかな音程変化を演出する。ギターなら弦を押し上げて出すベンド(チョーキング)奏法やエフェクトを利用する。

拍子も9/8拍子を基にディスコグルーヴ的に再構成している。

楽器のソロ部分は即興的で聴きごたえあり!

まとめ 2つのアレンジの違いから・・・

ベルギーとオランダのトルコ人コミュニティの違いが少し垣間見えるような。

両国とも1964年に結ばれた労働協定によりトルコ系移民がコミュニティを作っていて、トルコ語教育、モスク、トルコ語の結婚式、宗教的集会などを通じて、アラベスク、民謡(Türkü)、Sazの演奏が盛んなのは同じ。

ベルギーはより伝統的・保守的傾向が強く(とはいえHadiseみたいなシンガーもいるが)リスナーも祖国の歌を聴いて懐かしむという感じ、オランダはもう少しクロスオーバー志向が強い感じでトルコ人向けというよりトルコ音楽を再発見してグローバルなリスナー向けという感じ。がする。