[スペイン語]ガルシア・マルケスの短編集を読んでみた:その⑦La increíble y triste historia de la cándida Eréndira y de su abuela desalmada

[スペイン語]ガルシア・マルケスの短編集を読んでみた:その⑦La increíble y triste historia de la cándida Eréndira y de su abuela desalmada

ガルシア・マルケスの短編集「エレンディラ」。とうとう最後の話、
「La increíble y triste historia de la cándida Eréndira y de su abuela desalmada」(無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語)まで読み終わりました。

ページ数は約60ページ超この短編集で一番長いですが、一番読みやすかったです。一つの文章の長さも極端に長くないし、会話があるし、それほど奇想天外な場面展開もないので。私は語彙が乏しいので、辞書を引き引きでしたが、ストーリーは追えました。
直前の話(Blacamán el bueno, vendedor de milagros(奇跡の行商人、善人のブラカマン))で打ちのめされてた分、楽しく読めました。
この話も他の話と同様、なかなか皮肉な題名だと思います。

<↓↓ここからはネタバレありです↓↓>
主な登場人物はエレンディラとその祖母、恋人ウリセスとその両親。
面白いのは、この短編集の他の話で出てきた様々な登場人物、上院議員のオネシモ・サンチェスとか、親のいいつけを守らなくて蜘蛛になった女とか、ブラカマンとかがチョイ役で出てきたりします。
他の6編の作品がこの話の複線になってるというわけです。
この話が短編集の中で一番最後に収められているのは単に長いからではないんですね~。

私としては、この話で特に印象に残ったのは「因果応報」「(おそらくインディオの)伝統とか不思議な力」だったので、今回はその部分を取り上げてみたいと思います。

因果な話

この話、最後にエレンディラの祖母(la abuela)がエレンディラの恋人ウリセスに殺されたところで終わるんですが、
この死に方というのがちょっと因果なところがあります。

祖母の過去

物語の最初にエレンディラの家の素性についての説明があります。アマディスという伝説的密輸商人が祖母の夫で、二人の間には男の子が一人いました。その子もアマディスと名乗り、エレンディラの父親となります。
初代アマディスが、エレンディラたちが住んでいる砂漠の大豪邸を建てたのですが、そのいきさつは。。。

La versión más conocida en lengua de indios era que Amadís, el padre, había rescatado a su hermosa mujer de un prostíbulo de las Antillas, donde mató a un hombre a cuchilladas, y la traspuso para siempre en la impunidad del desierto.
(p97 原文)

インディオたちの噂によれば、祖父のほうのアマディスがアンティリャ諸島の一軒の娼家で、ナイフで一人の男を殺したあげく、その美しい妻を身請けし、安全な砂漠の奥に永久に押しこめたのだという。
(p116 「エレンディラ」ちくま文庫)

versión 説明
prostíbulo 売春宿
cuchilladas 刃で切ること
trasponer 移し変える(=transponer)
impunidad 無処罰、刑罰を受けないこと
el padre →エレンディラのパパではなくて、アマディス父子のうちの父の方、ということ。

つまり、祖母は砂漠の大豪邸で暮らす前は娼家に居て、その際には殺人事件、それもナイフ(cuchilla)による殺人だったようです。

祖母の最期

そして最期は祖母もナイフで殺されます。かつては美しかったようですが、70の齢を越えて熊(oso)のような怪力で、襲い掛かってきたウリセスに応戦するすさまじい生命力の祖母です。

Ulises le saltó encima y le dio una cuchillada certera en el pecho desunudo.
La abuela lanzó un gemido, se le echó encima y trató de estrangularlo con sus potentes brazos de oso.
- Hijo de puta - gruñó - . Demasiado tarde me doy cuenta que tienes cara de ángel traidor.
(p157 原文)

ウリセスは祖母に飛びかかり、むきだしの胸に肉庖丁を突き立てた。祖母は呻き、ウリセスにのしかかって、熊のように逞しい腕でその首を締めながら叫んだ。
「碌でなし!気づくのが遅すぎたよ、この顔は気の許せない顔だってことに」
(p189 「エレンディラ」ちくま文庫)

certero(a) 的を外さない
gemido うめき
estrangular 絞殺する
puta 売春婦
traidor 人をだます、見かけに反して有害な

壮絶な格闘がこの後も続きます。。。
祖母は、ナイフによる殺人事件の結果身請けされたけど、最期は自分自身もナイフによって斃れるという、なんだか因縁ぽい結末となります。

ところで、話はそれますが、祖母の罵倒に出てくる「ángel traidor」(見かけだけで本当は天使なんかじゃない天使)。この2語、特に「ángel」はウリセスをよく描写している言葉です。
というのも、ウリセスの最初の登場場面で、どんな風貌かが書かれた箇所があるんですが、ここでも「ángel」が使われていて、

era un adolescente dorado, de ojos marítimos y solitarios, y con la identidad de un ángel furtivo(p111 原文)
(ウリセスは)金髪の若者で、空色の目がいかにも頼りなげで、堕落した天使にそっくりだった
(p133 「エレンディラ」ちくま文庫)

furtivo」は「人目を忍んだ」とか「隠れた」と辞書にはのってますが、密猟とか覗き見とか、あまりイイ意味ではない使い方をされているようです。

どちらにしろ、ウリセスは天使のような風貌の(それなりにイケメンと想像される)青年だけど、内面は全然頼りなくてダメな男っぽい設定になってます。(2度の祖母暗殺に失敗して、最後にはエレンディラにも捨てられてしまう・・・)

(おそらくインディオの)伝統とか不思議な力

祖母があまりにも強烈な個性の持ち主のため、エレンディラの印象はややもすれば薄れがち・・・と初めて読んだ時はそう思ってたんですが、
物語の要所要所で、エレンディラも面白い特技を披露しています。

夢占い

エレンディラは、祖母が見た夢を占うことができます。

これはまだ砂漠の豪邸で暮らしている、物語の最初の部分。

-Anoche soñé que estaba esperando una carta - dijo la abuela
Eréndira, que nunca hablaba si no era por motivos ineludibles, preguntó:
- ¿Qué día era en el sueño?
- Jueves.
Entonces era una carta con malas noticias - dijo Eréndira - pero no llegará nunca.
(p95 原文)

「ゆうべ、手紙を待ってる夢をみたよ」と祖母が話しかけた。
やむをえない理由がなければ口をきかないエレンディラだったが、祖母に訊ねた。
「何曜日の夢だった?」
「木曜日さ」
だったら悪い報せよ」エレンディラは答えた。「でも、その手紙は絶対に来ないわ」
(p115 「エレンディラ」ちくま文庫)

soñé soñar(点過去) 夢をみる
motivo 動機、理由
ineludibles 不可避の

この後、豪邸はエレンディラの不始末で出火した火事で丸焼けになり、エレンディラのさらなる不幸が始まります。

そして物語の最後、祖母を殺しに行くウリセスに話しかける場面。

Eréndira no se volvió a mirarlo, pero en el momento en que Ulises abandonaba el cobertizo, le dijo en voz muy baja:
Ten cuidado, que ya tuvo un aviso de la muerte. Soñó con un pavorreal en una hamaca blanca.
(p156 原文)

エレンディラは振り返ってウリセスを見ることもしなかったが、彼が小屋を出ようとした瞬間、小さな声で言った。
気をつけて。死神がうろついているのを知ってるわ。夢で、白いハンモックに寝ている孔雀をみたそうよ
(p188 「エレンディラ」ちくま文庫)

cobertizo 納屋、小屋
pavorreal 孔雀

という具合に、物語の急展開直前に、祖母が見た夢をエレンディラが占うという形式で話が進んでいます。

ところで、祖母は夢を見るだけで、夢占いの知識はなさそうです。
エレンディラの母親は物語に全く出てこないので、祖母や母親からこの知識を受け継いだわけではないことがわかります。
でも、エレンディラの幼少期は、家に14人もの裸足の女の召使(las catorce sirvientas descalzas)がいたようで、おそらくインディオの召使に育てられているときにこういった夢占いの知識なんかも得たのではないかと想像しています。

インディオの眼力

インディオの人々のこういった不思議な力とか伝統とかは、他の箇所にも出てきます。
ウリセスの母親はインディオ(グアヒラ族)で、こんな風に描写されています。

Era muy bella, mucho más joven que el marido, y no sólo continuaba vestida con el camisón de la tribu, sino que conocía los secretos más antiguos de su sangre.
(p128 原文)

彼女は大へんな美人で、夫よりだいぶ年下だった。
種族の服を相変わらず着ているだけでなく、その血に古くから潜む秘密を知っていた。
(p154 「エレンディラ」ちくま文庫)

no sólo ・・・ sino que~ ・・・だけでなく~も

ウリセスの母親は、未来を見通す目というか、カンの鋭さといったものがある女性です。
最後に長いですが、ウリセスの母親が、ウリセスが恋をしているところを見抜く場面から。

Cuando Ulises volvió a la casa con los hierros de podar, su madre le pidió la medicina de las cuatro, que estaba en una mesita cercana. Tan pronto como él los tocó, el vaso y el frasco cambiaron de color. Luego tocó por simple travesura una jarra de cristal que estaba en la mesa con otros vasos, y también la jarra se volvió azul.
Su madre lo observó mientras tomaba la medicina, y cuando estuvo segura de que no era un delirio de su dolor le preguntó en lengua guajira:
- ¿ Desde cuándo te sucede?
- Desde que vinimos del desierto - dijo Ulises, también en guajiro -. Es sólo con las cosas de vidrio.
Para demostrarlo, tocó uno tras otro los vasos que estaban en la mesa, y todos cambiaron de colores diferentes.
Esas cosas sólo suceden por amor - dijo la madre - . ¿Quién es?
(p128~129 原文)

ウリセスが剪定用の道具を持って家へ帰ると、母親は、近くのテーブルの上にある四時の薬を取ってくれと頼んだ。ウリセスが手を触れたとたんに、コップと薬瓶の色が変わった。ほかのコップといっしょにテーブルに置かれているガラスの壺に、こんどはいたずらのつもりでさわると、やはり色が変わって青くなった。薬を飲みながら母親は息子のようすを見ていたが、病気のために生じた幻覚でないことが分かったので、グアヒラ語で訊ねた。
「いつからそうなの?」
「砂漠から戻ったときさ」とウリセスがグアヒラ語で返事をした。「ガラスのものだけだけどね」
それを証明するように、ウリセスがテーブルの上のコップに次々にさわると、全部がいろんな色に変わった。
「こんなことが起こるのは恋のせいよ」と母親は言った。「相手は誰なの?」
(p155 「エレンディラ」ちくま文庫)

Tan pronto como ~するとすぐ
travesura いたずら、悪さ
jarra ジョッキ、水差し
delirio 妄想

ウリセスがガラスに触れるたびに次々に色が変わっていく、不思議な場面です。
時間も4時ということで、夕方?(いやまだ日は高いのか?)だとしたら、ちょっと幻想的な場面のようにも思われます。

おわりに

物語が長かったので、なかなかまとめきれず、記事も長くなってしまいました。。。
他にもお金の計算のやりとりや、面白い会話表現とか、紹介したいところもあるんですが、興味のある方はぜひ読んでみてください!
また、この話も映画化されていて(Eréndira (1983)ルイ・ゲーハ監督)、「Un señor muy viejo con unas alas enormes」(大きな翼のある、ひどく年取った男)と同じようにガルシア・マルケス自身も映画製作に関わっているようです。

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