[スペイン語]はじめての本格原書体験~ガルシア・マルケスの短編集を読んでみる:その① Un señor muy viejo con unas alas enormes.

[スペイン語]はじめての本格原書体験~ガルシア・マルケスの短編集を読んでみる:その① Un señor muy viejo con unas alas enormes.

先日はスペイン語の対訳本「続 やさしく読めるスペイン語の昔話」を読んでみました。 これも面白かったんですが、昔話よりもちょっと長めで、そして日本人向けでない文章がどんな感じなのか読んでみたくなってきました。

というわけで、はじめての本格的なスペイン語の原書に挑戦!

そこで選んだのがいきなりノーベル文学賞受賞作家の本と言うのはハードル高すぎだろう、と自分でもツッコミいれつつも、読んでみると意外や意外!、(カンニングしつつなら)読めるのがわかったので、これからしばらく感想を書いていこうとおもいます。

ガルシア・マルケスの短編集「La increíble y triste historia de la cándida Eréndira y de su abuela desalmada」

erendira

「La increíble y triste historia de la cándida Eréndira y de su abuela desalmada」(1972)
長いタイトルです。
邦訳タイトルは「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」

有名な「百年の孤独」(Cien años de soledad:1967)と「族長の秋」(El otoño del patriarca:1975)の2つの大作の間に書かれた短編集で、全部で7話が収められています。

本全体の感想は個々の話の感想の最後に書こうと思いますが、「エレンディラ~」以外は、1話1話はそれほど長くありません。(8ページから20ページくらい)

ただ、「エレンディラ~」だけは少し長く、この話だけで他の6話全てと同じくらいの分量になってます。

どちらにしても、1話1話が長すぎないので、初めて挑戦するには読みやすいです。
スペイン語の難易度もページ数と同じく、話により差がありますが、それぞれの話と語り口に個性があって飽きません

ちくま文庫から「エレンディラ 」として邦訳が出ているので、私は行き詰るたびにカンニングしつつ、原書を読んでみました。
ただ、邦訳は対訳本ではないので、原文と完全対応しているわけではないですが。


La increíble y triste historia de la cándida Eréndira y de su abuela desalmada


エレンディラ (ちくま文庫)

「Un señor muy viejo con unas alas enormes」大きな翼のある、ひどく年取った男

というわけで、まず1話目の「Un señor muy viejo con unas alas enormes」大きな翼のある、ひどく年取った男を読んでみました。

いきなり家の庭に現れたミスボラシイお爺さん天使への周囲の人間の感情の変化が、シニカルに可笑しさを含んで描かれた作品です。
ただ、はじめてなのは原書だけでなく、中南米が舞台の話もほぼ初めてで、あまり中南米の気候というか風土を知らなかったので、スペイン語以前のところでひっかかった部分が多数・・・(ガルシア・マルケス自体も読むのはじめてですが…)

カリブ海、とかそのへんの気候とか

中南米のなかでも、この話はカリブ海が舞台になっていると思われます。

で、カリブ海って今まで、いちばん上の写真みたいなエメラルドグリーンの綺麗な海、という勝手な思い込みがあったので、読み始めすぐの↓の文章に戸惑っちゃいました。

El mundo estaba triste desde el martes.
El cielo y el mar eran una misma cosa de ceniza, y las arenas de la playa, que en marzo fulgraban como polvo de lumbre, se habían convertido en un caldo de lodo y mariscos podridos.(p9 原文)

火曜日から陰気な毎日が続いている。
空も海も灰のひと色。三月になれば火の粉のようにきらきら光る砂の海岸までが、腐った貝まじりの泥のスープに成り下がっていた。(P8「エレンディラ」ちくま文庫)

腐った貝まじりの泥のスープって・・・、綺麗な海と180度イメージ違うんですが。。。

行った事がないのでよく分からなかったんですが、どうやらカリブ海沿岸って、そういう感じらしい。

カリブ海といっても、コロンビアのこの海の色は、ジャマイカのモンテゴベイやメキシコのカンクンのような目を見張るようなエメラルドグリーンではない。マリンブルーでもない。決して比喩的な意味ではなく、灰色をしている。この輝きのない灰色の海が太陽の光を浴びてわずかに透明度を増したとき、一瞬、青や緑の明るさをともなって光るくらいである。(P29 「コロンビアを知るための60章」 明石書店)

上の文章は「コロンビアを知るための60章」の「第3章 海岸地方」の一節なんですが、この後に続く話(雨が降るとすぐに冠水して家の中まで水浸しで~とか)読んで、ようやく、家の中に入り込んでくるカニを殺して海に捨てに行くってところは現実なんだとわかったしだいです。。

そしてこのあたりは熱帯気候。北回帰線と赤道のほぼ中間で、一年を通じて最高気温は30℃あたりらしく、さらに季節の変化は雨季(5月~10月)と乾季(11月~4月)に分かれるくらい。それぞれinvierno(雨季)とverano(乾季)と呼んでいるそうです。(p277 「スペインの言語」同朋舎出版)

Los dueños de la casa no tuvieron nada que lamentar.
Con el dinero recaudado construyeron una mansión de dos plantas, con balcones y jardines, y con sardineles muy altos
para que no se metieran los cangrejos del invierno, y con barras de hierro en las ventanas para que no se metieran los ángeles.(p15 原文)

家の持主たちは文句を言うどころではなかった。
取り立てた金で、バルコニーや庭園のある二階建ての屋敷を新築することができたのである。屋敷には冬場になっても蟹が上がって来れないような非常に高い階段があった。また、天使たちが入り込むのを防ぐために、窓には鉄の格子がはめ込まれていた。(P16 「エレンディラ」ちくま文庫)

なので、カニが家の中に特に入ってくるのは雨季なんだろうなと。冬にカニ、というと日本人的には「ズワイガニ!」って喜んじゃいますけど、カリブの人たちにとっては雨季のどんよりした空気を倍増させる小さなウジョウジョ湧き出てくるカニはうっとおしいだろうな。。。

天使に羽毛が生えたり復活の変調が起きる12月は乾季の前半。雨季よりはすごしやすくていい時期なのかもしれませんね。

まとめ

「百年の孤独」よりもとっつきやすく、はじめてのガルシア・マルケスとしても挑戦しやすい短編集「エレンディラ」から、「Un señor muy viejo con unas alas enormes」(大きな翼のある、ひどく年取った男)を読んでみました。

スペイン語の文章も決して易しくはないですが、最初っからあきらめる必要もない(ただし基本的な動詞の点過去、線過去は知っておかないとツライ)と思います。

この話は映画化もされていて、なんとガルシア・マルケス本人も映画の撮影には自ら赴き、製作にも口をだしているようです。

A Very Old Man With Enormous Wings [VHS] [Import]

原作と違って天使がニセモノとか、天使の羽がさらにショボイとか、蜘蛛女も色んな意味でアヤしいとか、、映画と原作ならやっぱ原作かな、と思っちゃいましたが、「patio(中庭)」がこういう自然を取り込んだ(というか自然そのもの)イメージか(笑)と、言葉の範囲の広さに驚きますた。

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