近所のスーパーで売っている「カラスカレイ」。身がトロっとして美味で、よく醤油とみりんと砂糖で甘辛く煮付けて食べてます。
ところで、以前はアイスランド産?カナダ産?だったか、原産地表示が国名からして寒い所だったのに、最近、「スペイン産」をよく見かけます。
カラスカレイって、寒い海域で獲れる魚だと思ってたが、スペインの海ってそんな寒いんだっけ?とか、
レシピとか何か新しいのがあるのか?と思って調べてみたら、なんか意外な事件に遭遇。
¿Cómo se dice “カラスカレイ”?
スペイン語では、カラスカレイは「fletán negro」というようです。
ちなみに「fletán」は「オヒョウ」です。(オヒョウもカラスカレイも同じカレイ目カレイ科)
カラスカレイは表側も裏側も全身真っ黒なんで(他のカレイは裏側が白い)、烏(カラス)カレイといわれていますが、スペイン語でも似た感じで「黒いオヒョウ」って呼ばれているんですね。
英語名「Greenland halibut」といわれるように、グリーンランドのような寒~い海に沢山います。
切り身になる前のカラスカレイ。1mを越えるらしいです。
http://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%82%AB%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%82%AC%E3%83%AC%E3%82%A4
漁法(Artes de pesca)としては、はえなわ漁(palangre)、底引き網漁(arrastre)、定置網(red fija)漁で獲られます。
ポピュラーな魚なのかと思ってたら・・・
スペインで沢山とれる魚でよく料理されてるのかなと思ってたら、なんか事情は違うみたいです。
スペインの漁業事情
1995年のEl Paísの記事(「Un pez llamado fletán」)が検索で出てきたので読んでみると(ただし、よく分からない部分ありなので詳細は確認して下さい・・・)
ナミビアの独立(1990年)で漁場(caladero)を失ったスペイン漁船が、(国をあげて)新たな漁場と魚を求めて行った先が、北大西洋、カナダ近くのカラスカレイだったそうな。
1995年の時点ではカラスガレイの水揚げ(desembarco)は、魚全体の水揚げ量の約5%ではあるものの、1キロあたりの単価は他の魚の平均より高かったようで(加工して付加価値がつくからか)、
基本的に加工して日本に輸出して稼ぐために獲っており、スペイン国内での消費はあまりなかったようです。
El Paísの記事
http://elpais.com/diario/1995/04/10/economia/797464810_850215.html
カナダと火花を散らす
スペイン漁船が大西洋越えてカナダ沖まで行って魚獲ってたのか、ってそのバイタリティーにもちょっと驚かされたんですが、
先のEl Paísの記事を読んでると、やっぱりカナダとの間に一悶着あったようで、この記事が書かれた当時「Guerra del fletán」という事件が起きていたんですね。
「Guerra del fletán」(Wikipedia)
https://es.wikipedia.org/wiki/Guerra_del_flet%C3%A1n
戦争、といっても、小競り合いって感じですが、要は、1995年にカナダのニューファンドランド島沿岸でカラスカレイ獲ってたスペイン船Estai号がカナダ当局に拿捕され、Estai号を助けようとした仲間の船も放水銃(cañon de agua)で攻撃されたりする事件があり、それが元で両国間に緊張が走ったようです。
(たぶん赤色部分あたりで拿捕される。ガリシア地方の一大漁港、Vigo港からたくさん船が出てたらしい。
大西洋を中心とした地図をみると意外にスペインとカナダって近く見える。。。かも)
スペイン船が拿捕された場所がカナダの経済的排他水域(la zona económica exclusiva)の外で、公海(aguas internacionales)なのにも関わらず拿捕されたというので、当時EUもカナダの物産をボイコットする脅しをかける事態にまでいったようです。
スペイン側からしたら、(先のEl Paísの記事の論調だと)せっかくカラスカレイ(それまで商業的価値があまりなかったらしい)を日本に輸出するビジネスを開拓したのに、カナダがそれを邪魔して(カラスカレイも輸出先も)横取りしようとしている!ってブチ切れてたようで、カラスカレイビジネスに携わる多くの人々の生活がかかってるので、その危惧も半端なかったようです。
カナダ側の言い分としては、事件があった海域は80年代の乱獲(sobrepesca)でタラ(bacalao)を始めとする漁獲量が激減してたので保護している、それもNAFO(Northwest Atlantic Fisheries Organization:北西大西洋漁業機関)の了解も得てるんだしー、スペイン船は小さな魚まで獲ってしまう目の細かい網使ってて違反してるしー!って主張だったみたいです。
結局拿捕されたスペインの船員は解放されたけど、問題の海域ではその後スペイン側も哨戒艇(patrullero)出したりして、問題の海域は物騒な感じだったようです。
でも結局決着ははっきりついていないのか、あいまいな終わりだったのかな・・・(この辺ちょっとよくわからない)。
ただ、この「Guerra del fletán」の前後でスペインのカラスカレイ漁獲量は10分の1にまで落ち込んだのに対して、カナダはスペインの倍以上の漁獲量をあげるようになって、形勢逆転しちゃったみたいです。
今まで見たことなかったのに、最近スペイン産のカラスカレイを見るようになったのは、また大量に獲れるようになったのか?何か変化があったのか、なかったのか。。。?どうなんでしょう。
おわりに
というわけで、どうやらスペインではあまり食べられていないカラスカレイ。特別な料理法はないみたいですが、ムニエルとかで食べるのが多いみたいです。
fletánのレシピとしてですが、燻製にした(ahumado)ものは美味らしいです。ちょっと気になるけど、手に入らなさそう。
http://pescadosymariscos.consumer.es/fletan-o-halibut/curiosidades-y-como-prepararlo
結局、スペイン産といっても、漁場はカナダとまぁ変わらないのであろうことが分かったカラスカレイ。
でも、頭落したり(descabezado)、内臓処理して(eviscerar)くれたり、切り身(filetes)にしたり、スライス(rodajas)したりと、加工してくれている人たちは違いますね。
ノルウェーではクリスマス料理に欠かせないらしいですが、お手ごろ価格でちょっとリッチな味わいの料理にできるので当分お世話になりそうです。