アルゼンチンのロックの影響はラップにも表れている。1998年生まれのWOS(本名Valentín Oliva)のステージではバックにロックバンドがいるし、往年のアルゼンチンロックバンドの曲からタイトルや歌詞の一部を取り込んだりするなど、アルゼンチンロックとのつながりが深いラッパーだ。
WOSのブレイクは2019年に発表した「Canguro」(カンガルー) という曲だ。この曲には、アルゼンチンのロックバンド、Patricio Reyが湾岸戦争をテーマにした歌(1991年発表)の歌詞の一部が取り込まれている。
彼のライムは特にZ世代を中心としたアルゼンチンの若い世代から共感を集めていて、BizarrapやNicki Nicoleに続くアーティストとして注目されている。
今回は、アルゼンチンの音楽やロックとのつながりが深い2曲を取り上げてみる。
「Culpa」(罪悪感)
MVでも男性2人がチャカレーラ(アルゼンチンの民族舞踊)っぽい踊りをしている場面があるが、独特のパーカッションのリズムが印象的なこの曲は、アルゼンチンフォルクローレの巨匠、アタワルパ・ユバンキからインスピレーションを得た曲らしい。
さらにRicardo Mollo(アルゼンチンのロックバンド、Sumo、Divididosに参加)がこの曲に参加している。
No sé cómo hacer, eh
culpa(WOS)
La vida me late y busco lo primero que sacie mi sed, eh
Pregunto a los dioses si merezco el don de volver a nacer, eh
Sigo en espirales que no diferencian dolor de placer
Cuando quieras, volvé
Ya no quieras volver
「Que se mejoren」
政治家、マスコミ、SNSや音楽業界などに対する批判が詰まっている一曲。虐げられる者と虐げる者の殴り合いや、権威へのプロトタイプ的象徴である着ぐるみが出てくる暴力的なMV。これは1999年公開の映画「ファイト・クラブ」のパロディーだ。
そこにRage Against the Machineを彷彿とさせるサウンドが、社会の怒りを効果的に表している。
WOSが産まれたミレニアム前後の音楽や映画が21世紀の閉塞したアルゼンチン社会を表現するのに使われていることで、逆にこういった社会問題がずっと昔から続いていることを思い起こさせられる。
ただ、Wosの面白いところは、批判する側と批判される側が明確に分かれているのではなく、批判する自分自身もこの腐った社会システムの一部であるという自覚を持っているところだろう。
自分自身の立場を客観的に見つめる視点がZ世代に共感されている理由かもしれない。
¡Que se mejoren! Y si no la quieren ver
¡Que se mejoren! Y si nos quieren joder
¡Que se mejoren! Y si no tienen con qué
¡Que se mejoren, eh! ¡Que se mejoren!
Que se mejoren(WOS)