Måneskin（マネスキン）のブレイクでイタリアのロックに注目が集まっている。ロックの発展は英米が中心だったため、イタリアとロックの組み合わせはあまり馴染みがない感じがするが、探せばイタリアのロック魂をいろんなところで垣間見ることができる。
1980年代のアルゼンチンにも、アルゼンチンのロック界に新風を吹き込んだイタリア出身のロックミュージシャンがいた。Luca Prodan（ルカ・プロダン）だ。映画になってもおかしくないような彼の波乱万丈な人生と、彼のバンドを取り上げてみたい。
Luca Prodanがロックミュージシャンになるまで
ルカは1953年イタリア・ローマで裕福な家庭に生まれた。中国製陶器の輸入販売で財をなした親が、自分にないものを子供に持たせようとして投資したのが、学歴だった。
チャールズ皇太子も通っていたスコットランドのロイヤルスクールであるゴードンストウンスクールに入学するが、卒業の1年前に学校から脱走・退学する。17歳、1970年のことだ。
その後ロンドンでレコード会社のVirginに勤めながらバンドを組んだり、ミュージシャンたちと関わったりしている。プログレッシブ・ロックやサイケデリック・ロックにポスト・パンク、レゲエやダブなどの音楽がぞくぞくと出てきた時で、ルカはシングルレコードの販売に関わっていたらしい。が、レコードを勝手に持ち帰ったり、友人や家族にあげたりするなどの違反がもとで解雇される。
1970年代の最先端の音楽シーンとヘロインは切り離せない関係にあるが、ルカもご多分に漏れずヘロイン中毒だった。さらに1979年には姉の自殺のショックでルカ本人もヘロイン過剰摂取で死にかけるという事件があった。
ロイヤルスクールという「枠」から抜け出て、サイケデリックカルチャーにどっぷり浸かったあげくヘロイン中毒となり、疲れたはてたちょうどその時、高校時代の友人からの写真に写っていたアルゼンチンの田舎の風景と友人の家族の牧歌的な雰囲気に魅せられて、アルゼンチンへ渡航する。
アルゼンチンのロック界に新風を吹き込んだ伝説的バンド「Sumo」
ルカがアルゼンチンに渡ったのはちょうど独裁政権の終末期にあたる。
Sumo（スモ）の結成は1981年。CDのジャケットにも力士の絵が使われているが、バンド名の由来はなんと日本の「相撲」らしい。
始めの頃は英語で歌っていたが、折しもマルビナス戦争(フォークランド紛争）でアルゼンチン政府がイギリスを敵視して英語を禁止したため、スペイン語で歌い始める。
1970年代イギリスのサイケデリック、レゲエ、スカといった音楽をアルゼンチンのロックに持ち込んだルカ率いるSumoは、中産階級の若者を中心に瞬く間に人気となった。
古くさい価値観や変化を嫌う老人を批判した「Los Viejos vinagres」（古い酢）は、ノリのいいファンク調の曲で、大ヒットする。
Estoy rodeado de viejos vinagres, todo alrededor!
（俺は古くさい酢っぱい老人たちに取り囲まれてるんだ、四方八方から！）
Juventud, divino, tesoro!
（若さは、神のような、宝さ！）
Los Viejos vinagres（SUMO）
Sumo解散とその後
ルカは1987年に肝硬変が原因で出血死する。享年34歳だった。6年という短い活動期間の中で、アルゼンチン社会に痛烈な批判を投げかけ、ルカの死をもって解散したSumoのメンバーは２つのバンド（Divididos と Las Pelotas）に分かれて活動を続けていく。
そのうちの一つ、Divididosを率いたRicardo Molloは前回紹介した若手ラッパーWOSと「Culpa」で共演している。
Sumoの初期の名曲には、彼のルーツやロンドン時代を彷彿とさせる曲がある。
不思議な空気感をもつ「Estallando desde el océano」（海からの爆発）。
18世紀の詩人、サミュエル・テイラー・コールリッジの「クーブラ・カーン」の一節とデビッド・ボウイのQueen Bitchが下敷きになっている。
「クーブラ・カーン」は麻薬で陶酔状態になった詩人によるフビライ・ハンの都の夢想だが、中国は彼の先祖の繁栄の源泉でもあるし、デビッド・ボウイといえば言わずと知れた1970年代イギリスのグラム・ロックのアーティスト。これらがルカの中で混沌と一体になっている。
Gimme this and gimme that
Estallando desde el océano（SUMO）
I’ve got no need for your sudden attack
Gimme this and gimme that
I’ve got no need for your bipperty, bipperty, bipperty, bipperty