Ça va? チリメンジャコです。ひさしぶりのブログ更新です。
フランス語を始めて「Ç」(セディーユ)という文字を習ったとき、いかにもフランス語らしい、なんかおしゃれなイメージをもったものでしたが、
最近、この「Ç」が他の言語(カタルーニャ語やポルトガル語など)でも使われていると知り、フランス独自のアルファベットではなかったことを知りました。
調べてみると、(現在のスペイン語では使われてないけど)その起源はスペインにあるらしい。。。
「小っちゃなZ」が語源
「Ç」。Cの下の小さなヒゲのようなものは、フランス語では「Cédille(セディーユ)」と呼ばれてます。
生まれ故郷のスペインでは、Cedilla(セディラ)。
意味は、「小さなZ」から来ています。
スペイン語ではZのことをセタzetaもしくはzedaといい、それに「より小さい」という意味を表す縮小辞がついて、
zeda(Z) + illa(縮小辞)→ Zedilla →(つづり方の法則により)Cedilla
となったようです。
この「Cedilla」という呼称は16世紀半ばから文献に表れ、フランスでは約100年遅れて「Cédille」という呼称が文献に出てくるそうです。(仏語版Wikipediaより)
でも、そもそもなぜ「Z」なのか? それは次の項へ。Ça y est?
ZからÇへ。スペインでの発生と消滅
なんと西ゴート時代までさかのぼる!
スペイン、と一口ににいってもその歴史は複雑で、かつて西ゴート王国(418年~711年)という王国がありました。
西ゴート族というのは、あの民族大移動の契機となったゲルマン系の民族です。
「Ç(セディーユ)は12世紀に一般的と化すのであるが、その原型はすでに西ゴート時代にある。
すなわち、Zの部分にCを一部分重ねて※1とし、舌尖有声摩擦音を表していた」
『スペインの言語』同朋舎出版 p35
※1(文字を打ち込めなかったので、下に手書き)
舌尖有声摩擦音(ぜっせんゆうせいまさつおん)って、舌先で摩擦する音?(チッ、とかツッとか?)
どんな音だったのかは想像するしかないですが、なんか、当時の音を表現するのにCとZをくっつけて使ってたようです。
CZからÇへ。11~12世紀頃
CとZのくっつけ方も、CをZの上に置いたり、下に置いたり、いろいろあったようですが、
Cの後にZを書いてるうちに段々くっついていったようです。
現代スペイン語では「lanza(槍)」と綴られる単語も、かつては「lancʒa」と綴っていたようで(ʒは西ゴート文字のZと思われる)、それが、(CZの部分だけ取り出すと)
のようになってÇとなっていった模様。(仏語版Wikipediaより)
速記してたら自然にこうなりそうですね。
中世スペイン語(=中世カスティリア語)でのÇ
ところで、Çって当時どんな音を表していたかというと、発音記号的には/^の下にsがつく記号/という音で、
[ts]に近い「歯音」かつ「破擦音」だったようです。
13世紀当時は、
braço(腕、現代スペイン語ではbrazo)
Çid (有名なエル・シドのシド)
といった単語で使われていたようです。
今では(無理やりカタカナ表記したら)、brazo(ブラソ)だけど、Çを使ってた頃はbraço「ブラッツオ」のような感じだったのかな。。。
(『スペインの言語』同朋舎出版 p69 参考)
発音が廃れて、Ç、スペインで消滅
しかし、この[ts]みたいな音も、破擦音だったのがだんだん摩擦音になっていき、16~17世紀には[θ]歯間音(英語のthみたいな音)に変化していきます。
18世紀になると、正書法ができて、[θ]はcとzで表すことになり、
eとiの前ではcを、a,o,uの前ではzを使うことになります。
çumo → zumo(ジュース)
(『スペインの言語』同朋舎出版 p112、130 参考)
[ts]みたいな音の発音がなくなり、正書法の改訂で、18世紀には「Ç」はスペイン語から消えてしまった。
Ç、フランスで定着する
「czo」と書いていた事もあったが・・・
フランスでも、coと書くと/ko/の発音になるため、/tso/の発音を表すのに「z」を使っていたこともあったようです。
880年ごろに、フランス語で書かれた最古の詩といわれている「聖女ウーラリ賛歌」(Cantilène de sainte Eulaie)というのに出てくるらしい。
(ちなみにこのウーラリ(Eulaie。エウラリア)というのはスペインの殉教者らしい。)
(仏語版Wikipediaより)
De toute façon、どっちにしろ、フランスではÇは発生しなかったようです。
16世紀に「王室付き印刷者」により「Ç」がフランス語に導入される
フランス語にÇが導入され、普及したのは、16世紀に「王室付き印刷者」として活躍したGeoffroy Tory(ジョフロワ・トリー)という人の功績のようです。
Geoffroy Tory(ジョフロワ・トリー)ってどんな人かというと、
Geoffroy Tory(ジョフロワ・トリー)(1480:ブールジュ~1533:パリ)
フランスの印刷家、書籍の装丁家、版画家。
ブールジュで学び、1506年イタリアに留学。帰国後パリに住み、印刷や本の装丁の改革に努め、古いゴシック体に代りローマ体を普及させた。
1530年ごろフランソア1世により「王の出版家」imprimeur du roi に任命される。
その著書「シャンフルーリ」Champfleury(1529)は印刷技術の美的、科学的研究を記した古典的名著とされている。『ブリタニカ国際大百科事典』より
「シャンフルーリ」(Champfleury)の中で、「Ç」の導入についても述べてもいるらしく、また、この人はセディーユだけでなく、アクサン・テギュやアポストロフなどの導入も行っています。
亡くなる年に出版した「L’Adolescence clémentine」(第四版)という本(詩集?第四版以前はÇは使われていない)で、「Ç」が広く普及したようです。
フランスでは最初から、「Ç」はスペインでの音([ts]のような音)ではなく、/s/の音を表すものとして使われてたみたいです。
(仏語版Wikipediaより)
イタリアでは早くから「Ç」を使ってたらしく(ただし、発音は一つではない)、これは憶測ですが、このトリーさんも、イタリアに留学した時に「Ç」を知って、こりゃ使える、と思って持ち帰ったのかもしれません。
さいごに
「Ç」というとサ行の発音、って思ってましたが、もともとのスペインでは[ts]のような音を表していた、というのが面白いですね。
そして、わざわざ文字まで発明しておいて、(発音がなくなったんだから仕方ないけど)あっさり捨ててしまっているってところも。。。なんかスペインらしいような。。。